国も勧める、空き家のDIY型賃貸借とは?




国策としてのDIY型賃貸借の推進

個人所有及び賃貸空き家の急増が社会問題となっています。

総務省が発表した「住宅・土地統計調査」(5年ごとに実施)によると、平成25年の空き家数は820万戸で、空き家の数はここ20年の間に1.8倍になっているといいます。

最も多いのは「賃貸用の住宅」で約429万戸ですが、注目すべきは賃貸用でない個人所有の「一戸建住宅」の空き家が約230万戸もあるといい、全体の約3割を占めている点です。

この様な個人所有の空き家について、貸す機会があれば活用したいと考えている所有者は数多く存在していると思われます。

また、賃貸住宅においては、原状回復工事をめぐるトラブルも少なくありません。

原状回復とは、借主の故意・過失によって損耗したものを修繕して貸主に返すことですが、どこまでが借主の過失によるもので、どこまでが経年劣化による損耗なのかをめぐってトラブルが絶えませんでした。

借主に原状回復工事の費用を請求できなければ、貸主が費用を負担して修繕しなくてはなりませんが、これが大きな負担となり賃貸に出すことができなくなって空き家のままになっているケースも多いと思います。

今後日本が人口減少を迎える中で、国内の賃貸住宅市場はますます厳しい状況になるのは明らかでしょう。

国土交通省では、空き家対策の一環として個人所有の住宅につき賃貸住宅としての流通を促進することを目的に、平成25、26年度に「個人住宅の賃貸流通を促進するための指針(ガイドライン)」や、DIY型賃貸借の活用に向けての実施スキームや契約上の留意点等に関する報告書をとりまとめました。

その上で、DIY型賃貸借による契約当事者間のトラブルを未然に防止する観点から、平成28年4月に「DIY型賃貸借に関する契約書式例」と、活用にあたってのガイドブック「DIY型賃貸借のすすめ」を作成し、平成30年3月には「DIY型賃貸借に関する契約書式例」を改定するとともに、「家主向けDIY型賃貸借の手引き」を作成しています。

今回のガイドラインは、主に一戸建て空き家の流通促進のために考えられたものですが、今後一般賃貸住宅にも普及する可能性もあります。

実は今までにも「カスタマイズ賃貸」というカテゴリーで人気の物件もありました。

「カスタマイズ賃貸」は、あらかじめ用意された壁紙や床材などから借主が好きな物をセレクトできたり、壁に棚を取り付けられる程度のものでしたが、それでも自分好みにカスタマイズできるイメージがあり、人気が高い様です。

そして今、「DIY型賃貸借」が新たに注目されています。
国を挙げて普及に取り組んでいるDIY型賃貸借とは、いったいどのようなものなのでしょうか。また、DIY型賃貸借のメリットやデメリットは何なのでしょうか。

今回は、「DIY型賃貸借」について、ガイドブックや契約書式をもとにご紹介したいと思います。

DIY型賃貸借とは何か?

そもそもDIYとは、「Do it yourself」の頭文字をとったもので、住まいの修繕や模様替え、収納家具や生活に必要な身近なものを自分で作って楽しむことを指した言葉です。

40年程前に提唱されたといわれ、古くは「日曜大工」の様な意味合いで使われていました。

その後DIY商品を扱うホームセンターの増加によって大きなブームとなり、今では中古住宅のDIYが注目を集める様になりました。

自らの手で住まいを改装していく楽しさは、インテリア雑誌やテレビ番組でも頻繁に取り上げられています。

通常の賃貸借では、住宅の修繕・改修・設備の更新などの費用は貸主負担で行い、借主の意向は一切反映しないのが一般的です。

一方借主は、原状回復義務のある賃貸借契約条件によって、釘を打つこともできないのが普通でした。

賃貸住宅に住む人は、住まいを自分なりに改装して住みたくても、それは許されないことだったのです。

借主が住宅を自分で回収できるのがDIY型賃貸借

DIY型賃貸借は、借主の意向を反映して住宅の改修を行うことができます。借主自身がDIYで改修するケースや、借主が専門業者に発注して工事を行うケースが一般的な様です。

改修にかかる費用は原則として借主が負います(ただし、主要な構造部分は貸主が修繕を行います。)

つまり、貸主が修繕を行わないことで家賃を相場よりも安く設定し、借主は浮いた分の費用でDIYによる改装を行うという仕組みです。

一方、中には貸主が工事費を負担して、借主の意向を反映して業者に改修工事を発注するケースや、貸主と借主の間に入った事業者が転貸人として借主の意向を反映して工事を発注するケースもあります。

転貸人が工事を発注する場合には、事業者と貸主の間のマスターリース、事業者と借主の間のサブリースの賃料差額を改修工事資金とします。

他にもいろいろなケースが考えられますが、共通しているのが借主の意向を反映した工事が行われるという点です。貸主と借主の双方にメリットがあるので、賃貸住宅の空室対策にも有効とされています。

しかし、一般的な賃貸借契約と同様に原状回復などのトラブルが発生する懸念はゼロではなく、貸主・借主との間で十分に協議し、双方が合意の上で契約を行う必要があります

DIY型賃貸借のメリット・デメリット

DIY型賃貸借が注目される様になった背景には貸主・借主に以下の様な事情があるためです。

貸主側の事情

  • 築年数が経過した物件は、なかなか借り手が見つからない。
  • 借り手を探すための修繕費用や募集費用が大きな負担となっている。
  • 借主の要望やライフスタイルに合わせるためには、多額の投資が必要になる。

借主側の事情

  • 新築物件は家賃が高くて借りられない。
  • 賃貸住宅は自分の好きな様にリフォームできないので、自分らしい暮らしができない。

こうした事情をもとに、空室になりがちな古い物件を中心に「内装の変更自由、原状回復義務なし」という条件で低い家賃で提供し、お互いがwin-winの関係になることを目指したのがDIY賃貸です。

DIY型賃貸借は貸主・借主共にメリットが多いのですが、メリットばかりではありません。デメリットもあるので、事前に把握しておく必要があります。

貸主・借主双方のメリットとデメリットを詳しく見ておきましょう。

DIY型賃貸借 – 貸主側のメリット

  1. 修繕にかかる費用や手間がかからず、現状のままで貸し出すことができるので、修繕費用を抑えて効率よく管理することができます(ただし、主要な構造部分は貸主が修繕義務を負います。)
  2. 借主の好みに合わせた模様替えやリフォームが可能なため、長期間の入居が見込めて安定経営につながります。
  3. 借主負担で改修工事を行った場合、退出後に内装や設備などがグレードアップされている可能性があり、次募集時に賃料を高く設定できる可能性があります。
  4. DIY賃貸借に関心のある若者が多いと考えられるため、SNSなどを活用して募集を行うことで、営業費用を最小限に抑えられる可能性があります。

DIY型賃貸借 – 貸主側のデメリット

  1. 借主が行う修繕の内容について、事前の確認と施工後のチェックが必要になります
  2. 借主が行う工事が、構造躯体や設備を損傷しない様に注意を払うことが必要です。
  3. 相場よりもやや低い賃料設定になります。
  4. 借主の好みで修繕できるため、工事の内容によっては次の借り手が見つかりにくくなる可能性があります。

DIY型賃貸借 – 借主側のメリット

  1. 自分好みの部屋に改装できるので、持ち家の様に愛着がわきます。(ただし、DIY工事の申請、貸主の承諾・合意が必要です。)
  2. DIY費用を負担する分、貸主との話し合いによっては賃料を相場よりも安くできる場合があります。
  3. 自身で費用を負担して業者に発注する場合、業者との交渉でコストを引き下げることも可能になります。
  4. DIY工事部分は、退去時に原則として原状回復義務を負いません。

DIY型賃貸借 – 借主側のデメリット

  1. 入居時にDIY工事費用が必要になります。また、予想以上に修繕費用がかかってしまう場合があります。
  2. 入居までに時間や手間がかかる場合があります。
  3. 入居後にも修繕費がかかる場合があります。

DIY型賃貸借契約の問題点

上記の様に、DIY型賃貸借もメリットばかりではありません、貸主、借主それぞれにデメリットがあります。

私たち建築に携わってきた立場からは、特に貸主の方に懸念材料が多い様に思います。大切な資産である物件の価値を大きく損ねる結果になる恐れもあるので、注意しなければなりません。

以下は私見になりますが、貸主のリスクとして認識しておきたい事柄です。

要チェック:認識しておくべき貸主のリスク

1.建物の安全性や住宅性能の低下に対する懸念

工事内容、工事実施者などをあらかじめ決めておいたとしても、その内容が建物全体の構造や設備に及ぼす影響が建築の素人ではなかなか判断できません。

「使用素材の選定や施工方法は適切なのか」、「どの程度まで建物に手を加えることを許容できるのか」などの施工面については、正しい判断ができない可能性があります。

問題が発生しそうな工事には次のようなものが考えられます。

構造躯体の損傷、住宅性能の低下

主要な構造部分は借主が手を加えることができないといっても、どこまでが主要な構造部分でどこからがそうでないのか素人では簡単に見分けがつきません。

また、無意識のうちに住宅性能を低下させてしまうこともあるでしょう。

壁にニッチ(壁の一部をへこませて作った飾り棚)を作ったら知らないうちに筋交いを切断していた、電気の配線や配管を通すため柱や梁に穴をあけた、壁や天井の断熱材を邪魔になるので撤去した・・・など工事実施後にチェックしたとしても、建築の素人ではわかりません。

不適切な仕上げ材の選択

建築物は様々な法律で規制されています。不適切な仕上げ材や内装材を選択すると、建築基準法や消防法などの法律違反になってしまう場合もあります。

建物の安全性が低下するばかりでなく、建物全体の資産価値が低下してしまうことにもなりかねません。

コンセント、照明配線の増設や移設

電気工事をDIYで素人が行うと、漏電などによって火災が発生する可能性があります。電気工事を行うには、電気工事士の資格を持った人が作業にあたらなければいけません。

隠ぺい部分の不具合に対する処置

借主が行うリフォーム工事中に、壁の内部や床下などの隠ぺい部分で構造材の腐食やシロアリ被害、漏水跡などの不具合が発見されたとしても、適切な処理が行われない懸念があります。

自分の所有物ではないので、当面の自分の生活に支障がなければ、わざわざ手間暇をかけて適切な対応をする借主は少ないと思います。

2.入居者間のトラブル

共同住宅で借主がDIYで行う修繕や、専門業者に発注して行うリフォーム工事の際に、騒音や振動の発生、他の入居者に与える損害などのトラブルが発生する可能性が高まります。

またDIYで作業を行う場合は、業者に依頼するよりも工事期間が長期にわたることもあるでしょう。

作業時間や作業不可日(日曜・祝日等)をあらかじめ決めておく必要があります。

3.工事が失敗する可能性

借主のセンスや趣味趣向を活かして自由に改装できることは、借主にとっては大きなメリットになりますが、貸主にとってはリスクになります。

あまりにも個性的で奇抜なデザインへの改装を行ってしまうと、次の借り手が見つからなくなってしまいます。

また、プロの建築業者でも難易度の高い住宅リフォームを、DIYで行うのもハイリスクです、失敗する可能性も低くありません。

借主は失敗したら別の物件に移ればすむ話ですが、貸主は最悪の場合自費で業者に頼んで修復するしかありません。

4.併せて行っておくべき工事の不備

リフォームでは、併せて行っておくべき工事があります。

キッチンや洗面化粧台などの水回り設備機器の交換と同時に行うべき老朽化した配管の交換や、間仕切り壁の変更と同時に行うべき耐震金物の取り付けなどです。

同時に行えばコスト削減になり、建物を維持管理する上でも有利です。

しかし、借主が費用を負担して行うリフォーム工事では、こうした工事が行われない可能性が高いと思います。

DIY型賃貸借契約の上で注意すべきポイント

DIY型賃貸借において最も大切なのは、貸主・借主がDIY工事内容について、事前に十分に協議と合意をすることだと思います。

国土交通省はDIY型賃貸借契約の定義を、借主の意向を反映した改修(DIY工事)を行うことができる賃貸借契約やその物件(改修工事の費用負担者が誰かを問わない)としていて、「賃貸借契約の特約の例文」「申請書兼承諾書・別表」「合意書」の3つの書面を使用します。

1.賃貸借契約書

契約期間、賃料などDIY工事以外の事項を記載します。

DIY工事部分の取り扱いに関しては「特約」とし、承諾書や合意書の内容に従うこととしています。

2.申請書兼承諾書

DIY工事の実施に関する内容(工事内容、費用、原状回復義務など)について、借主・貸主の承諾を得るための書面です。

工事内容や取り決め事項を記載した別表を添付します。

3.合意書

貸主・借主双方の合意事項を明確にするための書面です。

書面記述が必要な具体的な契約ポイント

上記を用いてDIY型賃貸借契約を行う場合の注意すべきポイントを具体的にご紹介します。

1.DIY工事の施工

工事内容、施工範囲、新たに設置する設備や仕様について事前に確認します。また、設計図面や見積書、施工業者との契約書など、工事関係書類は保存しておきます。

施工前、施工後の写真なども残しておくと良いでしょう。

2.DIY工事部分の所有権の明確化

契約期間中や退去時に、工事部分の所有権が貸主・借主のどちらにあるのかを明確にしておく必要があります。

交換した住宅設備機器や新たに造作した家具など、どちらの所有物になるのかが明確でないと、あとあとトラブルの原因になります。

3.契約期間中の管理・修繕責任の明確化

契約期間中の部屋の修繕や管理責任は貸主と借主のどちらが負うのか明確にしておく必要があります。

4.退去時の原状回復義務についての取り決め

DIY型賃貸借では、必ずしも原状回復の必要性があるわけではないので、原状回復義務の有無や、工事部分を残置するのか撤去するのかについて取り決めておく必要があります。

残置する場合には、工事部分が本来有するべき機能が失われている場合(器具の故障など)は、借主が補修を行うことを明確にしておきます。

また撤去する場合の原状回復義務の有無や、原状回復の範囲を決めておく必要があります。

4.退去時の費用精算についての取り決め

借主に所有権のある工事部分の貸主の買取の有無など、費用精算について取り決めておく必要があります。また、契約期間満了前に解約した場合の精算の有無についても合意しておくとよいでしょう。

DIY型賃貸借の今後 – UR賃貸住宅の取り組み例

現在UR賃貸住宅でもこのDIY型賃貸借を活用したUR-DIYが好評の様です。

本格派のこだわりにも対応できる大規模な改修が可能な物件から、壁紙や床面の変更など表層部分の部分改修が可能なもの、壁面のDIYだけに特化した物件の3タイプがあり、DIYのための様々な特典やサービスが受けられます。

また、近年人気の高い古民家再生など、DIYによって物件が活用されることも期待されます。

所有者にとって価値のない物件でも、DIY可とすることで新たなニーズが生まれる可能性があります。

一方施工に関しては、前述した様に様々な問題があります。

素人がDIYで施工した物件に、次の借り手が好んで住んでくれるかどうかという不安もあります。貸主としては、DIYリフォームによって欠陥住宅になってしまう懸念もあるでしょう。

今後DIY型賃貸借が広く普及していくためには、リフォーム会社や建築士、不動産業者などの専門業者が積極的に関与し、貸主に対して有益なアドバイスやフォローができるかどうかが鍵になるのではないでしょうか。

まとめ

DIY型賃貸借は、貸主・借主双方にとってメリットばかりではありません。特に貸主にとっては、一定のリスクが潜んでいる様に思います。

DIY型賃貸借契約を行う際には、安易に契約してしまうことのない様、リスクを十分把握した上で、場合によっては専門家の意見を聞きながら慎重に進めて欲しいと思います。

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益子公博

益子公博

住宅会社で20年以上リフォーム事業の責任者経験があり、リフォーム業界、住宅建築業界の裏事情やリフォーム現場には精通。ホームインスペクション(住宅診断)の専門会社を経営、住宅診断、欠陥住宅相談、リフォーム会社への社員研修など実施しています。
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