「空き家」と「特定空き家」の違い~認定から強制撤去まで

かつて日本では住宅を資産と呼んでいました。
私たちが所有している空き家も当然かつては資産の1つに数えられていたはずです。

ところが今では、空き家は不動産ではなく「負動産」、資産ではなく「負債」と呼ばれるようになり、耳目を浴びる社会問題の1つにまでその価値を落としていしまいました。
管理不在のまま誰も住まずに朽ち果てる空き家(特定空き家等)は近隣住民に多大な迷惑を及ぼすだけの存在とみなされています。

ただしどんなに迷惑な空き家の存在が社会問題になろうとも、個人の財産に誰かが手を付けることは許されず、市町村などの行政は長らく対応に苦慮していました。

ところが2015年に市町村は、空き家対策の強力な武器を手に入れます。
それが空き家対策特別措置法と呼ばれる法律です。

この法律によって空き家の定義を「普通の空き家」と「迷惑空き家」へと明確に区別することができるようになり、行政は後者の迷惑空き家に対し増税措置、管理是正勧告、そして強制的な解体措置と、これまでに比べて断固たる態度で臨むことができるようになりました。

この法律では、迷惑空き家のことを「特定空き家(等)」と呼んでいます。

「うちの空き家もかなり傷み始めてきたな」と感じている空き家オーナーは、「特定空き家」についてしっかり理解しておかないと「最悪の事態」を招くことになりかねません。
今回は「(普通の)空き家」と「特定空き家」それぞれの違いについて、詳しく見ていくことといたしましょう。




「特定空き家」と「普通の空き家」との違い

まずはっきりさせておきたいのが、空き家所有者にとっての最悪の事態とは、行政による建屋の強制撤去(解体)であるということです。

空き家不動産所有者であるあなたがきちんと空き家の維持管理を実施する意思がないとみなされてしまうと、自治体があなたの空き家を解体、撤去したうえで、あなたに撤去費用を全額請求してきます

ただし空き家が自治体に強制撤去されるまでには、長い道のりがあります。
更に「特定空き家」に認定されてからも、いくつかの段階を経て、ようやく強制撤去となります。

そこまで達してしまうまでのどこかの段階でしっかり管理対応に打って出れば、強制撤去という最悪の事態は回避できるのですが、やはり最も望ましいのは「特定空き家」そのものに、所有の空き家不動産が認定されないよう管理を怠らない事であると言えます。

そのためにも、空き家不動産の所有者は「特定空き家」と「普通の空き家」はそれぞれ何が違うのかを法律知識ベースでしっかりと押えておく必要があるでしょう。

※尚、法律では「空家」という言葉を使っていますが、この記事では「空き家」で統一しています。また「市町村」「自治体」の中には、東京23区の「特別区」も含まれます。

どのような根拠法で市町村は特定空き家(等)を撤去できるようになるのか?

周辺に迷惑を及ぼしている特定空き家の強制撤去処分を最終的に決定するのは自治体の長(市町村長)であり、このことは空き家対策特別措置法に明記されています。

地域に迷惑を与える無管理状態の空き家を管理、処分しなければならないのは、当然のことながら本来は不動産所有者であり、そのことも同法に書かれてあります。

特定空き家等の認定制度を一言で説明すると、「所有者が空き家の管理と処分を放棄した結果、周辺の生活環境が害されたとき、市町村に強い公権力を与える」となります。

空き家対策特別措置法では、強制力行使のプロセスに重要なルールを定めています。
それは市町村に強い公権力を与えるのだから、その公権力を行使するときは、

  1. 手続きを定め
  2. その手続きにのっとり
  3. 手続きの透明性をはかること

というルールです。

市町村がこの3つを守っているかどうかを監督するのは国土交通省です。
国土交通省は市町村に対して「地域の実情を考慮して適宜判断するように」とも述べていますので、かなり地方自治体に強制力行使可否の裁量を与えているように思えます。

「空き家問題は地域の問題であり、地域のことは国土交通省や都道府県より市町村のほうが詳しいはず、だから市町村が独自の裁量で強権力行使の可否判断をすることを認める」という理屈です。

したがって、実務上の特定空き家等への対応は、大きく地域差が出てきます。

空き家対策特別措置法の理解ポイント

  1. 特定空き家の問題は、本来は所有者の責任である
  2. 特定空き家への対応では、市町村に強い公権力の行使を認めている
  3. 市町村が公権力を行使するときは、手続きを明確に示さなければならない
  4. 市町村の独自判断も許されるので、特定空き家への対応は地域差が生じる

法律上の「特定空き家(等)」と「普通の空き家」

空き家対策特別措置法が考える「普通の空き家」とは、次のように法律上定義されています。

  1. 「建築物」と「それに付属する工作物」について、居住もその他の使用もしていない
  2. 「建築物に付属する工作物」とは「屋根や柱や壁があるもの」「門」「塀」である
  3. 居住もその他の使用もしていないことが常態化している
  4. 「常態」の期間は1年間
  5. 「居住もその他の使用もしていないこと」の認定は、「a:建築物への人の出入り」「b:電気・ガス・水道の使用状況」「c:建築物の状態」「d:建築物の登記内容」「e:所有者の住民票」「f:建築物の管理状況」「g:建築物の利用実績」の7項目で判断する

ここから分かることは、単純に建物に人が住まなくなった時点から空き家と認定されるわけではなく、付随した条件がかなり色々あるということです。

お役所仕事らしいとも言えますが、国民個人の財産処理に足を踏み込む話でもあるので、国土交通省がかなり慎重に「空き家」「特定空き家等」の定義を行ったことが伺えます。

これによると、1年以上誰も住んでいない家屋でも、その1年の間に誰かが電気を使った実績があったり、所有者の住民票が空き家の住所のままになっていれば、「(実体はどうあれ)法律上、それは空き家とは言えない」と判断されることになります。

当然「空き家ではない物件」ということは、特定空き家等に指定されることもありません。

空き家対策は国民の個人財産を(強制撤去等により)毀損しかねないので、行政機関が慎重に動くことは望ましいのですが、そのために空き家問題対応そのものがかなり遅れてることも否めません。

正直、新たな空き家がどんどん発生しているスピードに対して、肝心の空き家問題対策のスピードが全く追いついていない状況です。
空き家不動産が増加する背景と空き家問題対策の今
空き家増加問題の背景として、日本は高齢化と人口減少が同時に起きているから、空き家が増えるのは当然――と思っていませんか。 高齢...

以上が「普通の空き家」と認定されるための条件です。
そして「特定空き家(等)」は、普通の空き家の中で以下の4項目が当てはまるものをいいます。

6.そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態

7.そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態

8.適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態

9.その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態

つまり「普通の空き家」の5条件に上記4条件が加わると、行政から「特定空き家等である」と認定される可能性が出てきてしまいます。

尚、8と9は空き家物件の現状の様子を判断する項目ですが、6と7は将来的な予測に立った予防措置的な段階での条件項目となります。

今現在は周囲に迷惑をかけていないが、将来的には迷惑をかけるに違いない、という行政判断をされると特定空き家等に認定されてしまいます。
相当に厳しい内容と言えるでしょう。

それでは次に、特定空き家等の条件であるについて、それぞれの内容を少し詳しく見てみます。

空き家とは その定義について
不動産業界の最もホットな話題は、銀座の一等地の地価がバブル期の価格を超えたことなんかではなく「空き家問題」なのかもしれません。 ...

「倒壊して危険」の具体的な状態とは

特定空き家に認定する条件のうち「そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態」について、国土交通省は具体的に次のようなイメージを持っています。

著しい傾き

空き家の部材が壊れていたり、空き家が不同沈下したりして空き家が著しく傾斜しているとき、倒壊して危険な状態になるおそれがある、と認定します。

建物全体が沈下しているのではなく、建物の片方だけが沈下している状態のことを「不同沈下」といいます。

傾斜が20分の1(傾斜角度約3度)を超える場合、建物は著しく傾斜していることになります。これは地震などで被災した建物の危険度を判定するときの基準を使っています。

基礎や土台の損傷

空き家の基礎に大きな亀裂があったり、土台が腐っていたりシロアリ被害に遭っていたりした場合も「倒壊して危険のおそれあり」となります。
また、空き家を支えている柱、はり、筋かいの被害が大きくても同様に認定されます。

屋根、外壁の脱落、飛散

屋根、外壁、看板、給湯設備、屋上水槽がはがれたり破損したりして、脱落や飛散のおそれがある場合も、特定空き家に認定される可能性があります。

また、空き家の外に付けられた階段やバルコニー、門、塀の破損状況もチェックポイントになります。

擁壁(ようへき)の老朽化

擁壁(ようへき)とは、土砂が崩れるのを防ぐためのコンクリート製の壁です。
傾斜地に建築物を建てるときに、土砂を盛る「盛り土」を行いますが、そのままでは土砂が雨などで流されてしまうので、擁壁で盛り土を擁護するのです。

この擁壁の表面に水がしみ出していたり擁壁が割れていたりすると、盛り土が流出して空き家が傾くおそれがありますので、擁壁の老朽化も特定空き家を認定するときの確認項目になります。

擁壁劣化の例(国土交通省ウェブサイトより)

「衛生上有害」の具体的な状態とは

特定空き家等の条件「そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態」とは、空き家物件が次の内容に合致するときに適用されます。

  • 吹付け石綿が飛散する可能性が高い
  • 浄化槽の汚物や排水管の排水が流出し、悪臭によって地域住民の生活に支障をきたしている
  • ごみが放置され、悪臭がしている
  • ごみの放置により、ネズミ、ハエ、蚊などが発生している

吹付け石綿とはアスベストのことで、強力な発がん物質が含まれているおそれがあります。
古い家では断熱材として住宅の壁の中に使われていました。

そのため国土交通省は、空き家が壊れて吹付け石綿が飛散してからでは遅いと考え、飛散の可能性が高いというだけで特定空き家に認定することにしたのです。

全くの余談なのですが、長年一級建築士として仕事をしていた私の父は、アスベスト吸引による石綿肺を発症して亡くなりました。30年以上も前に取り扱った建築現場での大規模なアスベスト利用が原因とみられています(遺族である母は労災による遺族年金を受けております)。

サイレントキラーと呼ばれるアスベストは、吸引してから数十年をかけて父の体を蝕み、発覚したときは治療法はなく、「アスベスト被害は手の打ちようがないのです。ただ終わりを待つだけです。」と医師に宣告されるに至りました。

非常に恐ろしいアスベストは古い空き家住宅でも盛んに利用された歴史がありますので、解体時などには吸い込み被害に遭わないよう、みなさんにも十分に注意をしてほしいものです。

アスベスト(石綿)情報
アスベスト(石綿)情報について紹介しています。

そのほかの悪臭や害獣、害虫などは、現実の被害があることが特定空き家等の認定要件になっています。

「景観を損なっている」の具体的な状態とは

特定空き家等の条件「適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態」は、行政にとっても判断が難しい項目のひとつです。

景観の良い悪いは、主観によるところが大きいといえるからです。
悪意のある空き家所有者であれば、他人から「景観を壊している」と言われたとしても、「そんなことはない」と相当ごねることも考えられます。

そこで空き家対策特別措置法では「景観損壊ルール」を定めています。

景観法に基づいてつくられた景観計画の対象地域や都市計画の景観地区では、空き家の形態や意匠が同計画に適合しているかどうかを判定します。

また、景観計画や都市計画がない地域でも、地域で独自の景観ルールを定めていれば、そのルールに従った景観損壊判定をすることができます。

さらに、景観計画も都市計画も、さらに地域の独自ルールがない場合、次の状態に該当すると特定空き家に認定されます。

  • 屋根、外壁が汚物や落書きで汚れている
  • 多数の窓ガラスが割れている
  • 看板が原型をとどめていない
  • 立木が空き家の全面を覆っている
  • 敷地内にゴミが散乱している

「生活環境にとって不適切」の具体的な状態とは

特定空き家等の条件「その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態」を見るのは、「立木」「動物」「管理状況」の3つの観点です。

立木の観点 立木が腐って倒れていないか
枝が折れて近くに散らばっていないか
枝が道路にはみ出して歩行の妨げになっていないか
動物の観点 空き家にすみついた動物の鳴き声、糞尿、悪臭、毛の飛散の程度
ネズミ、ハエ、蚊、ノミが発生していないか
空き家にすみついた動物が、周辺の家屋や土地に侵入していないか
空き家に発生したシロアリが、周辺の家屋に飛来していないか
管理状況の観点 空き家が施錠されていなかったり、窓ガラスが割れていたりして、不特定の者が侵入できる状態ではないか
空き家の屋根に積もった雪が落雪して近隣の歩行を妨げていないか
空き家の敷地の土砂が近隣の道路などに流出していないか

これら10項目の状況が確認され、なおかつ地域住民の生活環境に悪影響を及ぼしているとみなされたとき、特定空き家に認定されます。

特定空き家等に指定された場合の行政措置プロセス

これまで、特定空き家に認定される条件について見てみました。

ここからは、もしあなたの空き家が特定空き家等に認定されたらどうなってしまうのか、行政の動きを中心に見てみます。

市町村長の助言から始まり、指導→勧告→命令と変遷する

特定空き家等に認定されると、市町村長が特定空き家所有者に対し、空き家の除去や修繕、立木の伐採を行うよう、助言することができます。

特定空き家所有者が市町村長の助言に従わないと、市町村長は指導→勧告→命令と徐々に強い態度を取ることができます。

そして市町村長が命令しても所有者が特定空き家を除去しない場合、市町村長は行政代執行という最終手段に打って出ることができます(つまり特定空き家等の強制解体です)。
市町村長が解体業者を手配して特定空き家を撤去して、その費用を所有者に後日請求することになります。

遠方に住んでいるなどの理由で、市町村が特定空き家所有者の現所在地を探し当てることができなかったときでも、行政代執行を淡々と行使することができるようになっています。

固定資産税の6分の1減税特例が外される

住宅が建つ土地の固定資産税は、更地の固定資産税の6分の1に減額されていますが、その住宅が特定空き家に認定されるとその特例が適用されなくなります。

すなわち特定空き家所有者が支払う定資産税が6倍になるということです。

空き家不動産の固定資産税を6倍も払わなくて済む4つの方法
空き家の固定資産税を6倍も払わなくて済む4つの方法 人が住まなくなってだいぶたつ空き家をお持ちのあなたは、「固定資産税の額がこれまでの...
空き家不動産トピックス|固定資産税とは?都市計画税とは?
固定資産税と都市計画税について 固定資産税とは、全ての固定資産と呼ばれるものにかかる市町村税で、毎年1月1日時点の所有者に対して課税さ...

国土交通省は市町村長に「慎重に動くべき」と指示

空き家対策特別措置法は市町村長に、助言、指導、勧告、命令、行政代執行の順番を必ず守るよう求めています。

また国土交通省は、助言、指導、勧告というプロセスを踏まずに命令をした場合は、その命令内容が無効になるとも明言しています。

同省がここまで厳格なルール作りを行った背景は、いくら特定空き家等が近隣住民の迷惑になっているとはいえ、行政代執行は人の財産権を侵害する行為だからです。
したがって、市町村はきちんと条例をつくり、助言、指導、勧告、命令、行政代執行の順に行うよう明記しなければなりません。

条例とは、都道府県や市町村がつくる「法律」のことです。

市町村は空き家所有者を徹底的に探す

市町村長がある家屋を特定空き家と認定したものの、その所有者がどうしても特定できなかったらどうなるでしょうか。
そのとき行政は徹底的に所有者を探すことになります。

市町村長はこれまで「普通の空き家」の所有者を探すときに、「不動産登記簿」「住民票」「戸籍謄本」「地域住民への聞き取り調査」を使うことが許されていました。

というより、この4つの方法以外で空き家所有者を探してはいけないとされていました。
市町村長は行政の長であり、有力な政治家でもあるので、本気を出せば様々な個人情報を入手することができます。
いくら選挙で選ばれた人とはいえ、それでは問題が生じるでしょう
そこで、市町村長が個人情報を収集するときは一定の制限が課せられているのです。

しかし特定空き家等の所有者を探すときは、先ほどの4つの方法に加えて「固定資産税の情報」「ほかの市町村長や都道府県知事が持っている情報」を活用できます。

国土交通省がここまで徹底的に特定空き家所有者探しを市町村長に許可しているのは、行政代執行で撤去費用が発生したときに、所有者にその費用を最終的に支払わせるためです。

「普通の空き家」所有者を探すときに、市町村長に許される手段 不動産登記簿
住民票
戸籍謄本
地域住民への聞き取り
「特定空き家等」所有者を探すときのみ、市町村長に許される追加手段 固定資産税の情報
ほかの市町村長や都道府県知事が持っている情報

国土交通省の考えは、「手続きは慎重に、行動は確実に失敗のないように」のようです。

特定空き家の認定可否判断を行政も悩んでいる

特定空き家の認定は「将来的に大きな被害が出る可能性がある」と行政が判断しただけでも行うことができると述べました。
それが空き家対策特別措置法の強さの源となっているわけです。

ところが、それだけの強制力を持った法律を執行するということは、為政者(市町村)には絶対に行使の失敗が許されないということでもあります。

そこで国土交通省は、市町村長と市町村職員だけで特定空き家認定を行うのではなく、専門家らで構成する協議会をつくり意見を聞くようにと指示しています。

定性的な「周辺への悪影響」をどう測るか?

極端な例ですが、広大な土地の真ん中に倒壊寸前のボロボロの空き家があり、土地も空き家も同一人物が所有していたとします。

この場合、特定空き家に認定されない可能性が高いでしょう。
それは周辺の住民に悪影響を及ぼしていないからです。

特定空き家等の認定や強制撤去といった措置は、周辺への悪影響の度合いで行うかどうか決めるのですが、すべてが数字で判断することができない定性的要素が多分にあるため、非常に難しい判断を強いられることになります。

そこで国土交通省は市町村に対し、特定空き家の認定措置を行うかどうか迷った場合には、次のような基準に基づいて措置判断しなさいと言っています。

  • 倒壊のおそれがある空き家が住宅密集地にあったら、措置する必要性が高まる
  • 倒壊のおそれがある空き家が通行量の多い主要道路の沿道にあったら、措置する必要性が高まる
  • 倒壊のおそれがある空き家が大雪や台風の影響を受けやすい地域にあったら、措置する必要性が高まる

この「措置する必要性が高まる」という玉虫色の言葉は役所用語と言えるでしょう。
状況によってYESともNOともとりえる便利な言葉ですが、いずれにしても「住宅密集地」「通行量の多い道路に面している」「大雪、台風の多い地域」にある空き家オーナーは、とりわけ行政からの措置を受けやすい立場にあることを自覚しておくべきでしょう。

国土交通省としては市町村長に対し「早く措置しなさい」と言いたいところですが、一方でしっかり手続きを踏むようにとも指導しているので、市町村長に措置を急かすような文章表現を避けたのではないでしょうか。

もしあなた所有の空き家が「特定空き家等である」と認定されたらどうなる

次に、特定空き家に対し市町村は実際にどのように動くのかを見てみます。

もしあなたが、自身の空き家に対し「うちの空き家も大分傷んできたけど、市町村から強制撤去されるほど朽ち果てているわけではないと思うが…実際はどうだろう」と懸念している状況でしたら、市町村の動きを把握した上で、今現在の自分の(空き家)に対する措置段階を知っておくべきでしょう。

措置段階1:市町村職員が所有者に電話で事情を聴ききとり調査

誰がどう見ても特定空き家の状態であったとしても、市町村はいきなり通知もなしに特定空き家に認定はしません。
家族断絶が珍しくないこの時代、複雑な相続の末に、知らないうちに空き家の所有者に自分がなっていた…というケースも少なからずあるからです。
さらに、所有者が空き家所在地から遠く離れて住んでいる場合、かつての「普通の空き家」が時を重ねるうちにすっかりと「迷惑空き家」になってしまったが、そのこと自体を所有者が知らないことも考えられます。

このように迷惑空き家の所有者に悪意がないことも考えられるので、市町村職員はまず、電話をしたり訪問したりして所有者とコンタクトを取ります。
そして現状を所有者に伝えて管理状態を把握することから始まります。

ただこれは、一見するとソフトなアプローチに見えますが、もしも「空き家所有者に悪意がある」と自治体側が判断すると、次の行動に移行します。

措置段階2:「所有者に悪意あり」と認めたら立入調査が始まる

悪意ある迷惑空き家所有者に対し、市町村職員側の次の行動は、立入調査となります。

先ほど詳しく見た通り、迷惑空き家を特定空き家等と認定するには、様々なチェック項目をクリアしなければなりません。

よって建屋の外観がどんなにボロボロであったとしても、市町村職員は目視調査だけで終わらせるわけにはいかず、実際に敷地の中に入って空き家自体に触れたり、柱やはりを確認したりしなければなりません。

市町村が立入調査をするときは、事前に所有者に対し実施日時などを通知します。

立入調査員証

立入調査を拒否すると20万円の過料が科せられる

既に立入調査の段階は、市町村職員が実際に動き始めているわけです。
そこで発生する人件費は血税でまかなわれています。
市町村職員が電話調査をしたときに、迷惑空き家所有者が誠実に対応さえしていれば、立入調査など行わないで済んだといえるでしょう。

したがって、市町村の立入調査を所有者が妨害した場合、20万円の過料が科せられます。
このように罰則規定がある空き家対策特別措置法は、かなり厳しいルールです。

ちなみに罰金は刑罰で、過料は行政処分という違いがあります。

措置段階3:立入調査結果に基づき、特定空き家等の所有者に助言と指導が行われる

立入調査と専門家たちの協議会を経て、市町村は特定空き家と認定します。
市町村がその次に取る行動は、特定空き家所有者への助言と指導となります。

当然、ここでいう助言と指導は、日常生活で用いる助言と指導とは重みが全く違います。
市町村職員は「この空き家は黒」という気持ちで助言と指導に臨むことになります。

助言と指導では、その空き家がどれほど近隣に迷惑をかけているかを伝えます。
そして、この助言と指導に従わない場合、次は勧告となり、勧告を受けると空き家の土地の固定資産税が6倍になることを伝えます。

国土交通省は、助言と指導は書面で行うことが望ましいとしています。

措置段階4:特定空き家等所有者に勧告が行われる

助言と指導に従わない特定空き家所有者には、勧告が出され、空き家の土地の固定資産税が6倍になります。

勧告は必ず書面で行われ、市町村職員が所有者に手渡しするか、郵送の場合は内容証明郵便が使われます。これで特定空き家所有者は「聞いていない」が通用しなくなります。

勧告書の書面例

勧告の内容はより具体的で「空き家を完全に撤去しなさい」ですとか、「東側2階の崩落した壁を撤去しなさい」などと書かれています。

ただ、勧告でもまだ命令よりは弱いので、勧告を受けてからも次のステップ(命令)に移行しないために、所有者が何かしらの空き家管理対応を取る猶予が与えられます。

猶予の期間は、空き家による悪影響をなくするに十分な時間が与えられます。
例えば特定空き家所有者が「解体して撤去する」と約束した場合、業者に発注するまでの期間や作業日数が認められます。

措置段階5:特定空き家所有者に命令が行われる

市町村からの命令は、特定空き家所有者に勧告したことが正当な理由なくして実行されなかった場合に出されます。

この正当な理由の中には、「お金がないから空き家を解体できない」という理由は含まれません。では何が正当な理由に該当するのかというと、国土交通省は特に事例を示していません。ほぼどのような理由も正当な理由とはみなされない、仮にお金がなくとも行政の命令には抗弁できない、と思って間違いなさそうです。

命令に従う場合は、勧告のときと同じ期間の猶予が与えられます。

命令に関わる事前通知書の例

命令書の例

特定空き家所有者の最終手段は行政訴訟で対抗するしかない

市町村長から命令が出されても特定空き家所有者がそれに従わない場合、両者は対立の関係になります。

特定空き家所有者には、勧告や命令に従わない理由を書いた意見書を市町村長に出すことが認められています。
意見書は、命令が出た次の日から5日以内に提出しなければなりません。

また特定空き家所有者は市町村長に対し、行政不服審査法に基づく異議申し立てをすることもできます。

異議申し立てが市町村長によって却下されると、特定空き家所有者は裁判所に訴訟を起こすことができます。
訴訟は、特定空き家所有者の最終手段となります。

この記事の前半部分で、国土交通省がこの特定空き家制度を慎重に運用していることを紹介しましたが、それは特定空き家所有者が起こした訴訟に絶対に負けないためでもあるのです。

50万円以下の過料が科せられる

特定空き家所有者が異議申し立てや訴訟をしてもしなくても、市町村長の命令に従わなかった場合、50万円以下の過料が科されます。

それでも特定空き家所有者が命令に従わないままでいると、市町村は行政代執行を行います。

行政代執行については次の章で詳しく解説します。

命令無視には実力行使の「行政代執行」が行われる

特定空き家等の所有者が市町村からの空き家撤去の命令を無視すると、市町村は強制的な撤去作業に取り掛かります。
行政機関が本人に代わって法が求める行為を執行することから、この強制的な撤去作業は行政代執行と呼ばれています。

空き家の撤去は行政代執行のひとつの例であり、すべての特定空き家を完全に失くしてしまう必要はありません。
市町村は特定空き家を認定するときに、周囲の住民への被害状況を詳しく調べますが、行政代執行はその被害を失くすことしかできません。

どういうことかというと、例えば市町村の調査で「東側2階の壁が崩れ落ちていて、いつ飛来するか分からず危険」と認定した場合、行政代執行といえども、東側2階の壁を処理することしかできません。

被害が消えたら、それ以上のことは行使できないのです。

ただ行政代執行によって東側2階の壁が撤去され、そのため景観を損なったり、不法侵入が起きる可能性が出てくるようであれば、行政代執行の内容を検討しなければなりません。

国土交通省は行政代執行について、次のように規定しています。

「行政代執行は、特定空き家による周辺の生活環境の保全を図るという規制目的を達成するために必要かつ合理的な範囲内のものとしなければならない」

ここにも、特定空き家という迷惑モノの処分であっても、人の財産権を侵害することなので必要最低限にとどめなければならない、という考え方が見えます。

戒告所により行政代執行が所有者に通知される

行政代執行の事例

それでは行政代執行によって、特定空き家が撤去された事例を見ていきましょう。

最初の撤去は横須賀市

空き家対策特別措置法によって最初に特定空き家を撤去したのは神奈川県横須賀市でした。

老朽危険家屋を空家等対策の推進に関する特別措置法により除却します(市長記者会見) (2015年10月21日)|横須賀市

横須賀市はその空き家を2012年から問題視していました。
そこで2015年5月に同法が施行されるとすぐに手続きを開始し、同年10月には撤去工事に着手しました。

その空き家はほぼ崩れ落ちる寸前の状態だったそうです。
空き家の所有者は特定できてなく、今後も見つからなければ撤去費用は横須賀市の持ち出しになります。

行政代執行された特定空き家等の物件(引用:横浜市ウェブサイト)

所有者が分かっている特定空き家の撤去は全国的に珍しい

東京都葛飾区は2016年2月に、空き家になっていた2階建て木造住宅を取り壊しました。
この建物は道路側に大きく傾き、住宅の骨組みがむき出しになっていました。
近隣住民によると「風が強い日はトタンが落ちてきた」そうです。

この事例は、日本経済新聞が取り上げました。日経が特定の行政代執行を記事にするのは異例です。

空き家解体を行政代執行 所有者特定では異例、東京・葛飾
東京都葛飾区は3日、昨年5月に全面施行された空き家対策特別措置法に基づき、老朽化し倒壊の恐れのある空き家を行政代執行で取り壊す作業を始めた。所有者に取り壊しを求めたが、応じなかったため。所有者が判明

日経が注目したのは、葛飾区がこの空き家の所有者を特定していたからでした。
大抵の特定空き家等の撤去は、所有者が分からないため話し合いの余地がなく、仕方なく行政代執行を行うという形です。
この例のように所有者が判明している特定空き家を撤去するのは全国的にも珍しいケースなのです。

所有者が判明しているということは、葛飾区はこの所有者に対し、助言、指導、勧告、命令を過去きっちりと行ってきたわけです。
こうした再三にわたる行政からのアプローチに対して所有者が頑として屈しなかったので、日経がニュースにしたのでしょう。

まとめ – 特定空き家になってもまだ道はあります

最後に一文を紹介します。

「特定空き家の所有者が、助言若しくは指導、勧告又は命令に係る措置を実施したことが確認された場合は、当該建築物は特定空き家ではなくなる」

どことなく切ない印象を持ちませんか。

これは国土交通省が作成した「特定空き家等に対する措置に関する適切な実施を図るために必要な指針(ガイドライン)」の終わりのほうに出てくる文章です。

どのような空き家であれ、かつてそこにはきっと家族が住み、所有者と何らかの深い関係や思い出が紡がれた場所であるはずです。
それが自分自身の実家ならば、猶更「お前の家は迷惑だ」と名指しされることに、空しさと悲しさを感じませんでしょうか?

この「特定空き家」という不名誉な称号は、所有者が住宅を責任もってメンテナンスしてあげることで返上することができるのですし、仮に特定空き家等に指定された後も、上記のように(行政代執行にさえ至らなければ)まだ取り返しが何とかつくわけです。

それでも、どうしても空き家管理に時間とお金を費やすことができない諸事情があるようならば…他人に譲るなり売却するなり、しっかりと責任をもって誰にも迷惑をかけないように処置することこそが、周囲から強く求められる時代になっているのです。

The following two tabs change content below.
空き家隊長

空き家隊長

実家の相続をきっかけに空き家問題に直面。すったもんだの末に何とか売り抜ける。その際に経験したこと、様々な外部のプロに教えて頂いた空き家問題、土地活用問題について記事にしていきます。
スポンサーリンク

土地・家・マンションの無料一括査定サイト40社